昨年末に佐川急便の「荷物をぞんざいに扱う」動画が話題になり、宅配便業界の現状を多くの人が垣間見、そして知ることが出来たと思います。
そして年明け後、佐川急便のではなく「ヤマト運輸」が、声を上げました。
それは「通販商品の配送が影響で激務となっている」というものでした。
そこから、様々なニュースソースが深く掘り下げはじめます。実際はどうなのか、実態はどうなのか、と。ブラック企業と指摘(実際に訴訟なども起きている)されていることから、天下の企業がブラックなのか!と半ば冷徹な視線を送った人も少なくないかと思います。
ただ、この騒動は何が原因で起きたのか。
会社としては、何をすべきで、これから何をしていくべきなのか。
そういったことも論じられるようになり、ヤマト運輸は営業方針の転換を含めた一種の改革に乗り出しました。それを現場では冷ややかに見る声もあるようです。
現在は他のニュース(森友学園問題や東芝、てるみくらぶなど)に押されるかたちであまり目にすることが少なくなってきたこの宅配便(宅急便)問題、言っていることは重複するかもしれませんが、「こうなったらいいのにな」とか「思い切ってこうやったらいいんじゃない?」といったことを、気のままに述べていきます。
お断りしておきたいこととしては、それが現実的なことかどうかというのは別の話しです。あくまでも「企業もそれを使う業者も頭を抱えてしまうほど困らないように」というのを念頭に置いた考えであることをご了承いただきたいと思います。
ヤマト運輸関連のニュースを目にした方の多くは「amazon」の配送商品に端を発するSD(サービスドライバー)の勤務環境の急変事情に関する情報をご存知かと思います。
ネット通販の商品の配送はこれまでにも請け負ってきたものの、近年その割合が高くなりました。取扱量が増えるのは嬉しい悲鳴であり、歓迎すべきことであるはずなのですが、中々歓迎しきれない状況と言うものがあったようです。その主な理由は
・再配達率の増加
・時間指定配達の要望が高まったため、勤務形態が著しく狂う
に、あります。
再配達に関しては、これまでに各方面で議論が交わされてきています。そして企業側でも黙ってはおらず、宅配ポストの設置やコンビニでの受け取り可能にするなど、さまざまな手段を講じています。
時間指定配達は、受け取る側としては嬉しい機能です。配達する側も「その時間帯に在宅されている」という、確証ではないにしろ、大きな保証がつきます。それで配達が完了すればいいのですが、それでも再配達になる場合があります。ヤマト運輸では時間指定の枠を午前中のほか、午後の時間帯は2時間ごとに区切って「配達完了率」を高めようとしてきたのですが、いち企業努力では既に難しい状況になっていたようです。
その他、浮かび上がってきた問題が浮上しました。
それは「通販商品向けの宅配料金の低さ」でした。
これは、驚かれたひとが多いと思います。
要するに「企業向けの料金」があるということですから。
幾つかの課題が既にあったようにも感じますが、決め手(またはトドメ)は取り扱う荷物の「爆発的な増加」にありました。その事態に対してなんとか「企業努力」を続けてきた結果、今回の流れになった、というところです。
ただ、気を付けておきたいのは、この話は何もヤマト運輸1社だけの話ではないと思います。声に出しては言っていませんが、日本郵政や佐川急便も同様の問題を抱えています。これはもはや、いち会社の問題ではなく、業界全体の問題と言っても過言ではありません。よって、打開策はいち会社が定めるのではなく、業界として決めていかないと、より大きな問題となって返ってくるでしょう。
この記事を書くにあたり、1冊の本を読みました。
それは「小説 ヤマト運輸」。
高杉良さんの著作で、かなり取材をされての執筆になっています(新潮社刊)
これを読んで感じたことと、報道を見て思ったことをまとめて書いていくならば、ヤマト運輸は常に「便利さの追求」をしてきた会社であったというのがわかってきました。
その昔、個人向けの宅配は「郵便小包(今のゆうパック)」だけでした。
しかも、当時は「クール(冷蔵・冷凍)」がありませんでした。
運送会社は大口(企業向け)の仕事しかなかったのです。
この状況から、ヤマト運輸(その前身も含め)、小口の商品を扱うようになります。これだけでも当時としては大胆な革命でした。その後、ヤマト運輸といえば必ずこの話が出るくらい有名な「宅急便事業」の開始と、運輸省(当時)とのバトルが発生します。
宅急便事業の認可が下りてからも、ヤマトの勢いは止まりません。
スキー宅急便やゴルフ宅急便を開始し、念願の「クール宅急便」を開発します。
近年では「クロネコメール便」等もありましたが、結局グレーな「信書問題」が解決しない状態が続いたので、個人向けの「メール便事業」については撤退を決めます。皮肉なことに、代わりに台頭してきたのが、日本郵便が提供する「クリックポスト」でした。
話しを戻しますが、様々な宅配商品の開発を行ってきたのが、他ならぬヤマト運輸でした。つまりは「宅配便のパイオニア」だったのです。そして現在も、その地位は揺るがないと感じています。
ところが、いつしかそういった経営に暗雲がかかります。
「黒船」こと、通信販売業界です。
通信販売(ネット通販含む)は、自宅にいながら、出先にいながら簡単に買い物ができるということですぐに定着しました。その取扱量の劇的な増加が、その理由を強く裏付けます。そこまでは通常路線だったのかもしれませんが、販売量が頭打ちになると思われた頃に、各通販会社は次の一手を打ちます。
それが「送料無料」のカテゴリでした。
買う側の心境としては、送料無料というのはとても嬉しいです。
本来であれば「商品価格+送料=支払い合計額」になるのが普通ですが、地域によっては送料だけでもそこそこの値段がします。ぼくは北海道にいるため、ネット通販で商品を購入する際、必ず「送料」を気にします。送料無料の中で欲しい商品があればよし。仮に送料がかかるとしても、それほど高くない送料であれば仕方ないというスタンスです。
商品の大きさもひとつの問題です。これくらいの大きさなのに送料そんなにとるのかよ!と思うこともしばしば。これはひょっとすると、送料無料というカテゴリがあるからこその反論になっているのかもしれないなと、書きながら思ってしまいました。
この送料無料はユーザー側にとっては歓迎すべきことでも、当の宅配する側にとっては「大きなしわ寄せ」になっていたということを、今回の報道で知ることになります。
フタを開けますと、送料無料の商品を購入した場合、その中には「商品代金+送料」が含まれた値段であるということ。それは薄々感づいていましたが、報道の大きさを感じたのは、各通販会社と宅配会社との間で交わされた、企業向けの宅配料金がどんどん「割に合わなくなってきた」ことにありました。
当初であれば、うま味もあった通販商品の宅配でしたが、業務を大きく混乱させるほどに増加してしまったため、本来の配送コストよりも割安になってしまったため、商品ひとつに対する配送料金が「安く」なってしまったのです。この問題は昨日今日起きた問題ではないと思います。かなり前からあった問題だろうと見ています。
通販業界の商品配送を最初は歓迎していたものの、予測を上回るほどの取扱量の増加に追い付けず、十分な人材などの拡充も整わぬまま、在籍の社員の疲労は蓄積されていきました。これまでは単なるガス抜きのようなトラブルでしかなかったものが、かなり崖っぷち(世間を大きく揺るがすトラブル)の近くまで来ている状況に陥ってしまったのです。
このような状況に陥ってしまったのを改善できずにいたのは、宅配業者だけの責任ではないというように見ています。商品の配送を依頼する業者側にもその責任はあると個人的には感じています。
これは勝手な想像ですが、取扱量の増加に対してヤマト運輸側は通販会社に対して「改善策」を提示もしくは相談してこなかったのだろうか?と考えます。この部分の報道が見えてこないので何とも言えないのですが、そこまでひとりよがりだったのだろうかとも思うのです。仮にヤマトが企業に対して「料金の値上げ」を打診とはいかなくても相談くらいしていたのならば、企業側は考えることはしなくても、印象としてはそこそこの存在感を発揮するはず。しかし今回の騒動で初めて「値上げ」に触れるような表現がされていたので、やはり極限まで独自に打開していこうという想いが強かったのかもしれません。
ヤマトがパイオニアであったからこそ、というのが、今回は逆に足枷になった。
それが、問題をここまで肥大化させてしまったと言っても過言ではありません。
だから、この状態での値上げに消極的という意見が流れているのではないだろうか。
また、「ヤマトは孤立している」のでは?と思う見方もあります。
常に先頭に立って業界をけん引してきた実績がある反面。新しいことを始める際にはかなりの反発を受けています。そういった慣習のようなものがまだどこかに残っていたとしたならば、ヤマト運輸は真綿で首を絞められるかのように、じわりと企業の体力を奪われていったということもできると思います。
なんだかんだと言ってしまっていますが、ヤマトはその路線を修正せざるを得なくなりました。その方針は社内に限らず、社外にも認知してもらう必要があります。そして大事なことは、この問題はヤマト1社の話しではなく「業界」の話しであることを理解していく必要があります。
もはや、宅急便(宅配便)はサービスであるとともに、インフラでもあります。
ある程度の「負担」を負うべき、公共のサービスであるということです。
それを確立した立役者が、ヤマト運輸です。
小倉昌男というひとりの情熱を持った男が切り拓いた、大いなる夢の証です。
その夢を「公共サービス」として定着させたいま、宅急便(宅配便)というインフラは、次の段階に向かう必要が出てきたということではないかと思っています。
テレビのニュースを見ていますと、駅やコンビニに宅配ボックスを設置した、または前倒しで設置するという報道が流れています。
しかし、これは都心部に限っての話しだと理解しており、確かに宅配する個数の多くが都市部に集中するとはいっても、これには限界があると思います。つまりは「いたちごっこ」に終わります。
これからも通販商品の取り扱い個数は増えていきます。現在のところ、個数が減る要因は見当たりません。そのため、どんなに宅配ボックスを設置したとしても、それは一時しのぎにしかならないのではという懸念を持っています。
ではどうすればいいのか。解決策の大きな一手としては、以前にも書いた「雇用」を起こすこと。前の日記では「荷物預かり所」を設け、そこに1社ではなく、各社が乗合で出資・参加し、共同運営する。システムは開発しなければなりませんが、そこに条件(制限)を設け、かつ人を配置していってはどうかと考えています。
理由はいくつかありますが、ひとつは宅配ポストではやはり限界があること。増やしても増やしてもすぐにポストが埋まり、回転率はさほど上がらないのではと思っています。そして、設備投資の費用が膨らみます。メンテナンスも必要です。それに見合う回転率かどうかは、ちょっと疑問が残ります。
共同出資には、運送会社ではなく、ある一定以上の個数取引がある「企業」にも求めます。そうすることで、企業や業界という枠を超えた環境で「配送」に関して考え、取り組むことができます。要するに、社会的インフラに対してジャンルを超えた企業が取組み、発展させていくことが出来る構図が出来上がるわけです。大きくシフトしていくことで、様々なコストを効率化(合理化ではなく)するための試みも生まれます。それは総じて、各社における再配達率の低下や初回における配達完了率の向上に寄与すると思っています。
人の配置については、純粋にこれがモデルとして確立された場合、都市型と郊外型に分かれるかもしれませんが、ある程度の雇用を創出することができます。もちろん、配送各社から出向してくる必要はありますが、1拠点ごとに複数人の在籍が叶い、ローテーションで周り、対応していくことを考えていくと、中々の規模になります。これを環境に合わせて開設していくことで、様々な維持費等の削減が見込めます。こうして産業や生活に組み込む、食い込むことで、より円滑なインフラ、そしてサービスになるものと考えています。
今後の意識として、通販会社も意識改革を行う必要が出てくるでしょう。
そうしなければ、最悪自社で「配送部門」を立ち上げなければならなくなるでしょう。
その時に「こんなにも大変なのか」と言っても、もはや時既に遅しになるかもしれません。最初から大コケするだろうという訳ではありませんが、ヤマトや佐川、そして日本郵便が培ってきたノウハウを短期間で積み上げるのは不可能です。そう考えたとき、双方の利害関係ではなく、協力関係を意識した展開を行うことを求めていくべきだと思います。
小説を読み進めると、印象に残る出来事がありました。
それは「三越事件」。
ヤマト運輸は、過去三越との取引を打ち切った過去がありました(現在は回復済み)。
その背景にあったのは、当時の三越の経営陣のひとりが、配送業者を「見下し」、配送料金を「かなり圧縮」させていたこと。そして運賃改定の要望に対し、非紳士的な態度をとったことでした。このとき、三越との取引だけを見ると、ヤマトは赤字になっています。その他にも色々な要因があり、改善の申し出をしていたのですが、相手にされなかったそうです。そしてついには、社員を護るため、ヤマトは三越との取引を打ち切ります。
このエピソードは、いま読んでも衝撃的です。だからこそ、現代ではこのような出来事を起こして欲しくないという想いがあります。今であれば、もっと建設的な解決方法が見つかると信じているからです。「ネコがライオンに噛みついた」事例は、この1回だけでいいのです。手を取り合って生きていく術を、いまのひとたちは導き出すことができるはずですから、その創出に期待したいと思います。
最後に少しだけ個人的なことを。
いまはどうかわかりませんが、わたしがかつてヤマト運輸で働いていたとき。
朝礼のときには、社訓を唱和していたことを思い出しました。
その冒頭に
「ヤマトは我なり」
ということばがあります。
当時はただ言っているだけのことばでしたが、大人(というかおっさん)になってから改めてこのことばを見返してみると、何となくですが、このことばが伝えるものを感じ取ることが出来そうです。
願わくば、現場の社員、最前線にいるSDさんも含めて、このことばに込めた想いというのを共有できれば、ヤマト運輸大きな飛躍を遂げるでしょう。企業の寿命は30年程度だとされています。その中で改革を起こしながらも生き残ってきた企業ひとつがヤマト運輸です。ぼくもオークションやネット通販などで今後も宅急便(宅配便)を使いつづけます。だからこそ、自分自身でも再配達に「ならないように」工夫をして受け取るようにしたいですし、サービスを利用する意味でも、しっかりと送料を払って投資したいです。
まとまったのか、それともまとまってないのかが判断つきませんが、今回はこれくらいにして終わろうと思います。
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