寒さが厳しいなか 仕事帰りに一軒の喫茶店へ入った
ジャズの看板に惹かれて 吸い込まれるように入っていった
遅い時間にも関わらず 注文を受けてくれた
大皿に乗せられたナポリタンを
流し込むようにして胃袋に押し込んだ
そんな中 テレビからの音声に紛れて スピーカーからギグが流れ始めた
飯よりも 酒よりも 何より今はこれを求めていたのだと判った
静かなピアノが 小気味いいホーンの旋律が 優しいドラミングが
そっと心のローソクに火をつけた
去り際に 店主と話をした
いまの自分の立場に対して 歓迎的ではなかったが
「余所者を武器にしろ」
という言葉を放った
その言葉と視線からは 頷けるほどの力が漲っていた
この言葉を聞いたとき
何かが覚醒する音がした
勝手な想いでは 余所者は嫌われ 疎まれるものだろうと思っていた
だからこそ 少しでも早く ここでの生活に慣れなければと感じていた
そんな焦りを 一瞬でかき消すかのような旋律だった
余所者は弱点ではない
余所者を前に出せ
余所者にしか出来ないことをやれ
余所者でいるうちが華だと思え
その言葉は どのジャズ・ジャイアンツが奏でる音よりも魂に響いた
ナポリタン・珈琲・スピーカーから流れる音・店主の振る舞いすべてが
すべての不安要素を吹き飛ばした
ジャズが好きだったらまたおいでと 店主は最後に言った
忘れていた背中を取り戻し 僕は歩き出すことにした
「らしさ」を持って そして
「絶対」を掴む