【口語自由詩】こえをだすこと
朝、宿泊先の大浴場へ汗を流しにいくと
そこには誰もいない
自分だけの空間が待っていました
さっとお湯を流して汗を取り払い
湯船に身体を預けて
少しのあいだ迷走する
そんな時間があることがうれしかった
若いころにこんなことをやっていた
それは
大浴場で歌うことだった
もちろん
そこに誰かがいたら歌うことができないから
歌えるということは
ちょっとしたご褒美のように感じていた
久々に
その時間が訪れた
声を出してみる
だけど
高い音はもう出ない
声がかすれる
でも
自分の中では声は出ている
そう思いたいのですが
実際は声が出ていない
届いていないのです
ぼくは
途中で歌うことを諦めました
いつしか声は出なくなっていた
このままだと
ほんとうに声は出なくなるのかもしれません
そうなると
伝えたいものも伝えられず
届けたいものも届けられない
なんとももどかしく
後悔ばかりで
こぶしをただ打ちつけるだけの時間が流れてしまいます
そんなのはいやだ
瞬間的にそう思いました
声を出すことは
相手に何かを知ってもらいたいということであり
相手に何かを伝えたいということでもあると思います
相手に何かを届けたいと願うことでもあります
声は 聲は
わたしにとっても みなさんにとっても
大事なもののはずです
それがもし
衰えてきていると知ったなら
何かせずにはいられないと思うのは
わたしだけでしょうか
それとも愚かなことでしょうか
ぼくは あきらめたくない人間なんだとつくづく思い知らされます
それは往生際が悪いともいえます
そうなると単純にカッコ悪いってなってしまうけど
ぼくは 必死を忘れたくないのだと思います
聲を出すこと
それは 伝えること
それは 届けること
そしてそれは 生きることだと思います
ぼくの聲で何かを変えることはできないけれども
ぼくは無常感や無力感に支配されながらも
ただただ自分の聲で
言い聞かせるんだと思います
つたわりとどけ。って