シネコンの3番スクリーンDの5番席に座って映画を観た
スピーカーから吐き出される音楽とセリフは衝撃的で
そして情熱的でもあった
この空間はまさしく非日常の空間で
誰もが夢を抱いて何かを誓う空間でもあるような確信を持てる
椅子の座り心地は映画館によって異なるけれど
やろうと思えばここで一晩過ごすことが出来るだろう
エンドロールを眺めながらテーマ曲を聴いている
ふと琴線に音が重なり
錬金術のような鳥肌が立つ
どうして心情がこんなにも持ち上げられるのだろう
伏せていたわたしの心を焙り出すその人が歌う歌の何と容赦ないことか
あの日を振り返ってわたしはDの5番席で諦めきれない涙を流す
この週末であの街の桜は見ごろが過ぎてしまうそうだ
わたしの町ににはいつ桜が咲くだろうか
既に別れと出会いの季節は過ぎているはずなのだけれど
わたしは未だにあの別れの日で止まっている
それから一度も会うことはなく
電話で数回話してあとはメール
相手の面倒臭さが文面からも見て取れた
態度を変えれば相手も態度を変える
それくらい単純な出逢いだったのだろうか
あの人を活かす言葉を投げかけたわたしは無意味だったのだろうか
どうしても諦めきれなくて
目には見えることのない 重さを感じることのない鎖に後悔を繋いでいる
もう忘れてしまったあの人の顔
もう忘れてしまったあの人が作ってくれた料理
もう忘れつつあるあの人と過ごした時間
もう忘れつつあるわたしの存在
でも
わたしが忘れられようともわたしは決して忘れたくはない
忘れたくはないのだ