つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年9月の読書感想文⑨ 歌うクジラ(上下) 村上龍:著 講談社

もともと、村上龍さんの作品は読んでいました。今回久々です。

 

歌うクジラ(上下) 村上龍:著 講談社 個人蔵

 

 

スケールが大きいというか、近くにあるような近未来のお話。

グレゴリオ聖歌を繰り返し、正確に歌うザトウクジラが発見されます。なんとそれは2022年。物語は100年後の日本に舞台を移します。

 

主人公は流刑地から来た少年。その少年の目から見える世界を映し出すとともに、世界の闇の部分もつぶさに見ていきます。そうして向かった先、たどり着いた先に見えるものは何だったのでしょうか。その少年は、そこに何を届けたのでしょうか。壮絶な歩みは、村上龍さんならではの筆運びで進められていきます。

 

ぼくは正直読みづらかったのですが、かなり大きな作品であり、この時代にあるべき作品かなと感じています。個人的な印象としては、社会や世界への反論のような形で作品を発表される印象が強いためです。そのため作品そのものはかなり個性的で、好き嫌いがわかれるのではないでしょうか。

 

村上作品と言えば、村上春樹さんがいらっしゃいます。本を読み始めるようになってから、すでに村上春樹村上龍作品はそれなりの数がありました。そのどちらも、一定の時期まですべての作品を読みふけりましたが、お二人とも質が異なる個性の強さがありました。再読は難しい作品(自分が進んで読むことはない)もありますが、今となっては、そういった作品に目を通しておいてよかったのかもなと感じています。

 

本書はディストピア小説(反ユートピア小説)と言われています。

それは現代に十分当てはまるような気がします。

ただ自分がその空気に馴染むことが出来ないのは、今住んでいるところがディストピアから少し離れた距離にあるからなのかもしれません。または、ディストピア以前の環境にいるからなのかもしれません。

 

しかしながら、この作品には希望が込められていると思います。

だからこそ、作中の少年は、生き続け、前に進み続けたのだと思うのです。