つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和5年4月の読書感想文⑥ メタボラ 桐野夏生:著 朝日新聞社

分厚さの中には、絶望というか、無力感が漂っていたように思います。

 

メタボラ 桐野夏生:著 朝日新聞社 個人蔵

 

手元に買い求めた時にはどんな理由で買おうと決めたのか、はたと忘れてしまっていたのですが、読んでみるとダークというか底辺というか、どうしてこんなにもという思いしか浮かんでこない、ささやかな救いを期待してしまう作品でした。

 

まず主人公はふたりの男性なのですが、ひとりは記憶喪失、ひとりはダメ人間という具合。そのふたりが出逢って何とか生きていこうとするのですが、これがどうにもうまくいかない。いや、元来うまくいかせようと思っていない節があるくらい、ダメっぷりが出てきてしまいます。記憶を無くしたほうは何とか生きていこうと必死なのですが、途中で自分のルーツにたどり着いてしまいます。そこで普段の生活に戻れるはずと期待するのですが、それは更なる絶望を知るだけになるという、本当に重い物語です。

 

メタボラという言葉の意味が分からなかったので調べてみました。

メタボリズム(METEBOLOSM)」からの造語。そもそもは生物学用語で「新陳代謝」の意味だそうだが、都市を生物体としてとらえようとする建築家たちの運動でもある。(帯より)

 

この作品では活動家が登場し、主人公もそこに身を寄せて生活するシーンがあります。

活動家の元には人が来て、そして去っていきます。新陳代謝という意味を取ってになりますが、主人公のふたりはそれこそ新陳代謝を一方は受け身で、もう一方は能動的に待っていたのではないかと思いました。それぞれの結末が生んだ背景には、その土地の問題であったり、人間が抱えるものであったりと、深く悩むものでした。