火をかけて調理をする
自慢の鍋で
お気に入りのフライパンで
モーニングコーヒーを淹れるためのケトルで
ほんとうは熱々を口に放り込みたいけれど
口の中が火傷をして仕方ない
本当はその美味しさを味わいたいはずなのに
知らずに自分の内側を傷つけている
衝動に駆られる
それはもう自身の熱が最高潮のときで
相手を傷つけるには十分な熱さになっていて
相手が傷つくさまを上機嫌で眺めているけれど
粗熱が取れたときにやっと気づく
熱さというのはとても怖いものだと
誰もがキレる世界になってきた
この地上は鉄鍋に油を注がれとことん熱せられて
どんどん逃げ場を失っていく
相手を追い詰めるのが使命だと思っていた人は
いつしか自分が四面楚歌だと気づく
粗熱はそうかんたんには取れない
あれだけ飛び込むことをはやし立てていたはずなのに
いざ自分がと思うと足が竦む
その熱はどうやら
冷静さを奪う悪魔であることを知る
目の前の人がほんとうにいなくなって気づく
それは今手元にある幸せなどでは拭えないくらいに