つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年3月の読書感想文① マルチの子 西尾潤:著 徳間書店

ダ・ヴィンチかな?で、こちらの本が紹介されており、気になっていたので読んでみました。

 

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マルチの子 西尾潤:著 徳間書店 個人蔵

 

 

「マルチ」といえばマルチ商法がありますが、本書はマルチ商法を「自分の仕事」として奮闘する、ひとりの女性の話になります。ただ帯にある通り、「承認欲求のカタマリ」となった作品になっています。

 

マルチ商法、またはネットワークビジネス。はてまたねずみ講と言われては蔑みの目で見られる商売ですが、勧める側は至って真剣。「わたしたちは他にはない商品を売っている」という自負のもと、とある商品のオーナー、または代理店登録をして販促活動を行い、実績を積み重ねていくことで報酬額がどんどん増えていくことを夢見て活動しています。そこには「わたしたちは間違っていない」という信念もあります。

 

第二回大藪春彦新人賞受賞作家が、実体験をもとに描くサスペンス。

これは決してこの本の中だけではなく、ごく身近にあるサスペンスです。

 

現在マルチ商法はその分野を広げています。

ひと昔前ですと、健康器具だったと思います。

それが環境保護を目的としたものになり、健康食品になり、オーガニック〇〇になっています。ご自身がよく使っている商品の中にも、ひょっとするとそういったシステムで動いているものがあるかもしれません。

 

また「ビジネス」ということが前面に出てしまったことで、現在は「宗教」や「スピリチュアル」もマルチ商法化しています。以前からそういう仕組みではありましたが、そんなにがつがつしていなかった印象があります。大きな節目は「新興宗教」が出てきた頃ではないかと感じています。

 

 

本書は主人公が所属する組織における上位ランクを目指すための、涙ぐましい努力を綴っていますが、実際は「家計が火の車」状態になっています。それを「投資」と呼ぶ人がいるのかもしれませんが、リターンはそんなによくないと読んでいて感じました。「商品」を売る商売であるはずなのに、誰もがよく知っている会社の商品と口コミ等を主にした、物議を呼んでいる会社の商品とではどう違うのか。昨今はよくエビデンスエビデンスと言われていますが、信用に足るデータや資料がないままに、言葉だけでその商品について信用を得ようとしているところが大きな違いになります。そういう場合は決まって「社会では認知されていない」とか「これからのスタンダードになる」と言い含め、「あなたにだけ」といった特別感を添えてプレゼンをしていくのです。よくよく考えると、それはそれですごい能力だと思います。

 

さて本書ですが、「よくある」展開を主人公が迎え、どん底に堕ちます。

しかしラストを読んでしまうと、実際にこういう人はいるんだよなぁと納得もしてしまいます。

 

個人的に思うことは、マルチに正しさとかは必要なく、それが「流行」がどうかが重要なのでは、と考えています。Aという活動をしていた人がとある日からBの活動をしていて、Aの活動はどうしたの?と聞くと「あれはもう古いから」と言い放ちます。すべての人にではありませんが、そういった感覚で何かを追い求める人がいることも忘れてはいけないと思います。

 

いわゆる「マルチ」は、今やいろんな業態で動いています。

それはとても巧妙かつ卑怯でもあります。

信じて動くという姿勢は素晴らしいことなのですが、就職時や転職時に行う会社研究などをしっかりと行って、現在所属している、またはこれから属していこうとする組織のことを確りと知って理解してほしいと思います。