つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年7月の読書感想文⑰ 呪文 星野智幸:著 河出文庫

読んでいてぞくりとしました。この作品に描かれた世界と言いますか、現象は、すでに現実世界にあるからです。つまりはショッキングな作品だということです。

 

 

呪文 星野智幸:著 河出文庫 個人蔵

 

この本が刊行されたのは2015年。7年ほど前の作品です。

 

話の流れとして、寂れている商店街で飲食店を営んでいる男はある日、クレーマーを撃退したことで注目の目を集めます。このクレーマーですが、飲食店の評価を行うような人なのですが、どうやら「悪い」評価をつけるためのブログを書いているようです。当初この男はハンドルネーム(ブログネームというべきか)で訪れたお店のことをこき下ろします。それはお店でも店主に警告するほどです。ブログに記載された文章や映像は、ブログ主によって「編集」されており、非があるのは相手だと言わんばかりの主張を行います。しかしの主張は店主の毅然とした対応で見事に撃退されるのです。

 

これだけでも読み応えがあるのですが、本題はここからになります。

クレーマーの撃退により一躍有名になった飲食店の店主は、商店街の再興に力を注ぎます。その熱意に呼応するかのように集まった若者たちが様々なアイデアを出し、行動に移す様はとても羨ましく、微笑ましく感じるほどだったのですが、そのスピードはだんだんと制御できなくなってくるのです。

 

 

発端は小さなところに生まれた「正義」なのですが、その正義がいつの間にか「正義以外のなにか」にすりかわっていきます。その恐ろしさを見事に描き切っています。

 

この恐ろしさ、既に現実世界にあります。新型コロナウイルスが蔓延し、国があれこれと方針を出していく中で、独自の正義を掲げ、それに呼応して集まった人たちがいることをご存じでしょうか。そういった団体(グループ規模のものも含め)は様々な形でその「正義」を行使しようと画策します。そしてどうなったかは、ニュースをご確認下さい。

 

 

正義は正義であり続けることは難しいのだと実感させられる作品でした。