随分前に読んだ作品ですが、この時代にまた読まなきゃいけないと思うようになり、読んだという経緯があります。
詩羽(しいは)のいる街 山本弘:著 角川文庫 個人蔵
4話から成る長編。
主人公の詩羽(しいは)は謎だらけの少女。
お金も家もない、いわばホームレスなのですが、彼女が生活している街に溶け込んでおり、周りの協力を得ながら生活をすることが出来ています。
作品の中でも彼女の生い立ちには触れられてはおらず、最後まで謎のままなのですが、内容はとても不思議で、それぞれの話の主人公が詩羽につかまり(あえての表現)、主人公が本来遂げるべき目的(この場合は良くない目的)から逸脱した、公益と解釈できる方向へ導いていくという内容になっていました。
詩羽の仕事(任務?)ですが、他人への親切だと作中で話しています。
他人への親切ですが、万人が受け入れることが出来るものではありません。
はっきりと拒絶されそうなものなのですが、詩羽にかかれば相手はそれを受け容れてしまいます。そして受け容れた結果の展開が想像もできないものであったことに、ただただ驚くのです。こうなるともう、詩羽という存在は妖怪の「ざしきわらし」に思えてしまいます。都市伝説になりそうな存在なのです。
この作品は何となく「古き良き時代」の大事な要素を作品として残したいのではと感じています。令和の世では敬遠されるであろう「親切」は、令和の世であるからこそ歓迎されるものになって欲しいなと思います。詩羽もそう願っていると思います。