屠畜は残酷だ、という一言は簡単に放てるが、その一言を放つ前にこの本を読んだらいいと思いました。
世界屠畜紀行 内澤旬子:著 角川文庫 個人蔵
どれだけグロいのかと思ったらそうでもない。かえって面白いのが不思議な本です。
著者はまさしく世界中の屠畜事情を取材し、本書にまとめました。この本では取材できていない場所もまだあり、個人的には続編が出て欲しいところ。日本のみならず、諸外国の屠畜やその背景にある宗教や文化等、漏らすことなく伝えているため、屠畜というものが世界においてどのような立ち位置であるかがわかります。
一方、この屠畜は残酷だと声をあげる活動家がいます。その声に賛同する者もいるでしょう。しかし、その声を実現させるには何をすべきなのかがわかっていないような気がします。単純に「屠畜をやめる」だけでは済まされない話なのです。活動家は単純にあれそれを中止しろ、廃止しろと要求しますが、そのプロセスは見えてきません。そのプロセスを立てることが出来なければ、その人たちはただ目に映るものだけで物事の判断をしているにすぎず、活動家にあるまじき行為ではないかと推察します。
著者は屠畜場への取材を通して、様々な立場の人と知り合いになり、時には取材を行ってきました。そこから見える人間関係や文化文明、そして宗教や倫理観などは、そうかんたんに理解できるものではなく、決めつけることもできません。その中で地道に物事を捉え続け、記録したことは相当な努力だったと思います。あまり知るべきではないことなのかもしれませんが、スーパーの店頭に並ぶ食材はどのようにしてやってきたのかを、消費者はしっかりと知る必要があるんじゃないかと考えてしまいました。
この世界はこの屠畜に限らず、ほとんど知ることのない世界が広がっています。
何かを決めつける前に、その物事の扉を開いてからでも遅くはないと思います。