つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和6年2月の読書感想文⑧ 神さまたちの遊ぶ庭 宮下奈都:著 光文社文庫

御書印集めで新得町にある相馬商店を訪れた際、そのお店に宮下さんが立ち寄ったというエピソードが書かれている、というお話でしたので、再読になりますが購入しました。

 

神さまたちの遊ぶ庭 宮下奈都:著 光文社文庫 個人蔵

 

 

ちなみに訪問記はこちらになります。

 

maruyamabase.hatenablog.jp

 

過去記事がありました。

 

maruyamabase.hatenablog.jp

 

 

改めて感想を書くことになりますが、作家の宮下さん一家が期間限定で北海道に移住したときのことを本にした、というものになります。

 

場所は札幌や旭川、帯広といった都市ではなく、地方。その地方の中でも郊外地になる「どん詰まり」の集落と表現すればよいでしょうか。結構驚く人が未だにいるのですが、北海道内で居住しているところの一定箇所は、「携帯電波の届かない」場所もあります。もちろん光ケーブルなんてものも通っていなかったりします。徹底した不便な地域があり、それでありながらもそこで生活している人たちがいます。

 

宮下さん一家は「トムラウシ」というところで期間限定の暮らしを行います。発端は旦那さんで、当初宮下さんは後ろ向きだったようですが、その不安は的中と、いい意味で裏切られることになります。的中というのはやはり文明の利器が使えないという不便さになります。加えて都市部への距離です。つまりは自宅で必要なことが出来ない場合が多々想定されることになります。地方に関しては週に1回ほど買い出し等で市街地に行くことも多いのでそんなに不便さを感じることは少ないですが、やはり自宅やその周辺において出来ることが少なくなるというのは、大きなハンデになります。

 

いい意味での裏切りというのは言うまでもなく環境です。これでもかというくらいに特化した自然環境は、子どもだけではなく大人にとっても影響を与えると思います。しかしこういった大自然に囲まれての生活は、都市生活に慣れてしまった人には不向きです。移住を考えて実行する人たちはたくさんいますが、まずはこの環境に慣れること、受け容れることが大前提になってきます。加えてどんな小さな集落でも、人との交流が必要になります。都市部でもそれはどうようですが、地方がその距離がぐっと近くになります。そのため、覚悟して「自分も前へ出ていく」ことが必要です。自分には構わないでくれと言って引きこもれるのは最大の贅沢だと思いますが、自然に近い地方では現実問題として「共存していく」ことが求められます。宮下家はとても良い人たちに恵まれ、トムラウシに溶け込んでいったようです。

 

本書の特徴のひとつとしては、

トムラウシでの暮らし

・自然環境の捉え方

・仕事

・子どもの成長

など、多くの場面において参考になるところがあります。

現地の公共サービスなどもそうですが、今では廃れつつある「たすけあい」が軸としてしっかりあります。まったく違う環境の中で生活することは、単純に疲れます。順応していくことは、生きていくためには必要なことなのですが、それが自然にできてしまう子どもたちには頭が下がる思いがしました。

 

本書は月ごとに章が設定されていて、季節の移り変わりも感じることが出来ます。

その中で、新得町相馬商店さんのことにも触れられております。

次は相馬商店さんで、違う作品を買いたいなと思わせてくれる展開です。

宮下さんは、北海道民から見ても、とてもよい経験をされたなと感じました。

 

 

本書の初出は2013年になっていましたので、あれから10年が経過していることになります。宮下家の子どもたちも大きく、成長していることでしょう。

 

何度読んでも笑ってしまうのが、この作品における子どもたちの呼び名です。

「漆黒の翼」が個人的にはツボでした。すぐ本人から取り下げられてしまうのですが、ここでの暮らしで子どもたちの性格がよく見えてくる様を読んでいると、こちらも一緒にトムラウシでの時間を過ごしているように感じます。そして、この本を読み終えることが嫌になったり、涙したり、いろんなことを考えながら、この本を閉じて、トムラウシでの疑似生活を終えるのです。

 

 

移住は大変なことですが、特に地方と呼ばれる場所での生活は特に大変です。

自分にとっていい要素ばかり見ていると、足元を掬われます。

なので、勢いも大事ですが、可能であれば事前に調べ可能であれば一度足を運んでみてください。どうにかなる人もならない人もいます。それが現実です。しかし移住を果たしたいち個人としては、どうにかなって欲しいとの思いがあります。この作品には続きがある(たぶん作品化はしていないと思う)けど、それと同様に、わたしたちの作品も続いているのです。それを忘れたくないと思わせる、強く暖かい作品でした。