令和3年1月の読書感想文⑥ アンダークラス(THE UNDERCLASS) 相場英雄:著 小学館
図書館のスタッフさんが加工して貼り付けてくださった帯に興味を持ち、読んでみることにしました。
アンダークラス(THE UNDERCLASS) 相場英雄:著 小学館 八雲町立図書館蔵
大いに怒りを覚えた話です
これは決してこの作品の批判ではなく、読んで感情移入してしまった、という話です。
もう自分も年だな・・・とも思ってしまうのですが、読み手を引き込み、そして感情を引き起こすには十分すぎる重厚な内容となっています。
この作品は警察小説なのですが、いっぽうで日本の社会や経済の闇を浮き彫りにした作品だとも言えます。自分も決して詳しくはないですが、時折見る報道番組の特集などの記憶を辿ると、小説世界だけの話ではなく、実際に今、日本のどこかでありそうな話に思わせられます。日本はいつからこのような国になってしまったのか。悪いのは誰なのか。それを怒りとともに考えさせられた作品です。
生きていくためにお金は必要です。という歪み
話のおおまかなながれとしては、ひとりの外国人労働者が人を殺した罪で逮捕されます。
その動機は勤務先である介護施設の利用者さんから「自分を殺めて欲しい」という依頼を受けたもの。罪状は「死ぬのを助けた罪」となっていました。
この作品はどうやらシリーズもののようですが、残念ながら今回が所見。
主人公と思われる刑事さんがかなりのメモ魔で、逐一メモを取り、それがかなりの量になることが描写されています。この「蓄積された情報量」が後々効いてきます。
取り調べは進み、その外国人労働者は実は・・・という話になります。
その人は元々、違う事業所で働いていましたが、募集時の内容とは大きく異なる、「劣悪な環境と待遇で働かされ続けてきた」ことがわかります。
捜査上の「動線」として、かつての勤務先に行ってみると、そこには典型的な、歪んだ社会の実情がありました。
おおまかに書きますと、
外国人労働者は、よりよい収入と技術の習得のため、母国を離れます。
しかし受け入れの態勢として、「中間業者」や「受け入れ先の企業」が、その背景を一切汲まず、「自身の保身」に活用し、使い捨ててしまう日常が描かれています。
外国人労働者は、この作品の場合、正規のルートを使って渡航をしませんでした。
そのため、母国への仕送りにも苦労を重ねます。
刑事が事情を聴きにその職場へ行った際、その経営者から出た言葉は、「悪いのは自分ではない。その前に取り分を持っていく存在があるからだ。」
その後、捜査線上に新たに浮かんでくる、ネット通販会社にも似たような風潮を感じます。
そこにあったのは、「自分の生活(儲け)のためだけに他者がある」という考えに感じました。
お金を麻薬にしてしまう社会がある
実社会でもそうだと感じてしまうのですが、どうしてこれほどまでに「収益」を目指す人が出てきてしまったのだろうと思います。自由な働き方が増えていく一方で、求めているものはどこか殺伐としています。ときには虚栄を張り、ときには対象を貶めます。それを競争と言ってしまえばそれまでなのかもしれませんが、その世界は仏教用語である「穢土」そのものであると感じずにはいられません。
この世界において、お金は生活をしていくための必要なツールであることに変わりはないです。
が、収入や財産だけを「見て」相手を決める風潮があったり、階級のような格差がある現状がありますと、「お金こそ正義」という主張が見えてきます。企業も収益なくしては成長・存続はありません。利益をもたらさない人材に対してはすぐにお払い箱になります。「給料分の仕事」を求めるのはいたって正当な主張だと思いますが、自分たちが受け取る利益の重さと、相手に与える賃金に対する責任の重さは、均等ではないのではと言えます。この作品に象徴されるのは、「お金が生んだ毒素が人心を蝕む」というものだと感じました。
経済は誰のために?
作中でですが、日本経済の現状に触れたシーンがあります。
その中の表現として、経済の分野では日本は「後進国」になりつつあるというものがあります。この部分には同意するものがあります。
新型コロナウイルスが猛威を振るい始めたとき、日経平均株価は¥1.6000台まで大幅に下がりました。しかし昨年12月の時点では¥26.000ほどにまで回復しています。新型コロナがまだ落ち着かず、多くの業界が先行きを不安視しているのに、市場は活気づいています。ひょっとすると、「市場」と「現場」は、見ているものや温度が大きく異なっているのかもしれません。世間はどうしても「市場」を見てしまいます。市場の現況を見て、現場に落とし込もうとします。もし「市場」と「現場」が「まったく異なる世界」だとしたら、この落とし込みはいつになっても反映されず、開きが出ていくばかりになると思います。
怒りを憶えつつ、溜飲が下がる場面に助けられながら読み進めた作品でした。