つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年4月の読書感想文⑥ 火の鳥 大地編(上下) 桜庭一樹:著 手塚治虫:原案 朝日新聞出版

元々は新聞記事で知った、と思っているのですが、コミックの後に買い求め、このほど読み終えました。

 

 

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火の鳥 大地編(上下) 桜庭一樹:著 手塚治虫:原案 朝日新聞出版 個人蔵

 

登場人物にイラストがついているのですが、どれもが手塚先生の描かれた作品に出てくるキャラクターで、今回は名前を変えて登場しています。

 

 

本作は火の鳥の位置が少し変わっており、これまでは「永遠の命」であったのに対し、今回は「時間を移動する道具の原動力」というものになっています。タイムマシーンのエンジンのようなものです。そもそもの発端として「永遠の命」を求めて火の鳥を捜索するのですが、その一部をもとにタイムマシーンを開発します。

 

そして何をするか、というと、自分(自国)に都合の良い展開になるまで歴史をやり直す、という行為が繰り返されました。そして本作の舞台は、争いが活発に行われていたかつての世界です。本作は「これまでに起きた史実」になぞらえる様に構成され、火の鳥に翻弄されていくのです。

 

結果として史実通りに歴史が動いていくのですが、ああしなければ、こうしなければということで、火の鳥の力を使います。それはあたかも「永遠の命」を手に入れたかのような錯覚を覚えます。いっぽう、これまでの作品に共通して、人間の欲深さ、そして愚かさを露呈させ、世界がどのように動かされていくのかを感じ取ることができます。

現在、国際的に緊張した状態となっています。火の鳥はこの光景をどのように観ているのかなと考えてしまいます。どのような正当な主張があったとしても、それは自国(自己)向けだけのものであり、自己満足でしかないのは明白です。どのようなかたちで収束するのかは想像がつきませんが、1日も早く、誰もが望むかたちでの平穏が訪れることを願います。

 

 

本作は小説ですが、火の鳥の世界観を崩さず、しかしまったく新しい発想で展開されているもので、これまた読むのに時間がかかりました。著者は相当苦労されたのではないかと想像します。間違いなくこれは大作であり、読んでよかったと思います。いまだからこそ読める作品なのかもしれません。