つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年7月の読書感想文① 雪の香り 塩田武士:著 文春文庫

「盤上のアルファ」を読んでいた作家さんが純愛ミステリを書かれていたというので、読んでみました。

 

 

雪の香り 塩田武士:著 文春文庫

 

 

学生時代に出会った恋人が、実は警察が追っている。

社会人となり、新聞記者として働いている主人公の元にもたらされた(またはその情報を知ってしまった)報せは、独自の調査と淡い記憶を邂逅させていくという物語です。

 

最終的にこの恋人は犯罪を犯していたと確定するのですが、物語ラストの、彼女の本当の姿が明るみになっていく場面では、知るべきではなかったという後悔の念と、交際していた頃からの謎の部分を解き明かしたいという興味の部分が混ざり合った、決して爽快ではない感情が露わになっていました。

 

読み終えた感想として、物語の大部分は、彼と彼女の恋物語になっている気がします。

それが過去のことなので、過去のいちゃいちゃ(そこまでではないけれど)を見せられているようで、彼は本当に彼女のことが好きだったんだなという気持ちにさせられます。そこに時折現在の話が入ってくるので、「どうやら彼女は怪しい」という雰囲気は、終盤になるまであまり切実に感じることはありませんでした。

 

切ないというか、自分に置き換えれば未練のカタマリだな、というのが率直な意見です。そんな相手が犯罪者だと知り、確定されたとしたら、果たしてどうなってしまうのか、自分でも想像はつきません。だからこそ、身勝手ではありますが、自分が好きになった人は、そうであって欲しくないなと願ってしまうのです。

 

かつてお付き合いさせていただいていた人との記憶を文字に起こすことはないと思うのですが、この物語は、かつての恋人への想いを強めるきっかけになってしまったんじゃないかと、恥ずかしながら感じていました。