つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和4年9月の読書感想文④ 怒り(上下) 吉田修一:著 中公文庫

ずっと読みたかった本でした。繁忙期中の待機時間を利用して読みました。

 

怒り(上下) 吉田修一:著 中公文庫 個人蔵

 

 

 

物語のはじまりは都会で若い夫婦が殺害されるという事件から始まります。

現場には「怒」という血文字残されていたのに加え、そこで短時間ながらも生活した形跡を残していました。

 

そしてほどなく犯人の名前が割れます。しかし足取りがつかめず、時間だけが経過していきます。よくあるテレビの公開捜査等を用いて情報提供を呼び掛けるも、中々進展はしませんでした。

 

このような感じで犯人探しが続くのかと思っていたのですが、場面が3つに分かれます。そこに共通するのは、身元(これまでの経緯などを含めた)がわからない男性がいることです。その時点で怪しいのですが、為人は至って普通で、勤務態度なども良好なのです。身元なんてわからなくてもいい、このままこんな時間が続けば。と、少しでも思えるような状況だったのですが、先に起きた事件の公開捜査によって、その環境にゆがみが生じます。そこからの展開は、是非本書を読んでいただきたいと思います。

 

 

読み終えた感想としては、後味は決して良くないものでした。

肝心の何もかもがわからないままの終わりかたです。

しかしこの作品に込められた終わりかたには何があるのだろうと、読んだ後の余韻を感じながら考えてしまいます。そうしないと、この作品についての理解を深めることは難しいのではないかと思えるほどです。

 

人間の心の動きは目に見えませんが、その一端はことばに捉えることが出来ると考えています。そこから、かかわった人たちが何を思い、変化していったのか。それをしっかりと捉え、気持ちを確保することが出来ればなと感じました。