令和5年繁忙期の読書感想文② 影裏(えいり) 沼田真佑(ぬまたしんすけ):著 文春文庫
わたしたちは時折、表面のことだけですべてを価値づけてしまうことがあります。
それは時に正しく、時に大きな過ちを生むことがあります。
影裏(えいり) 沼田真佑(ぬまたしんすけ):著 文春文庫 個人蔵
芥川賞(第157回)受賞作の表題作に、単行本では未収録だった二篇を収録した文庫版になります。
こちらの作品、映画化されておりました。
会社の出向先で仲良くなった同僚がいます。
ともに釣りをするほどの、学生時代でいえば親友と言っても過言ではないほどの仲の良さを積み重ねていたはずなのですが、ある日その同僚が姿を消します。
そこに動揺を隠せなかったのは、主人公の恋愛対象が女性ではなかった点にあったからなのかもしれません。
仲良しの同僚が姿を消してから、その同僚の「知らなかった部分」に触れていくことになるのですが、その表現と言い文体といい、これぞ純文学というものを示してくれる、とてもよい作品だと思います。
文庫化にあたって収録された二篇も、本質は表題作に似た「匂い」を持っているように思います。ページにびっしりと埋められたことばの数々が独特の世界を生み出してゆく。小説はこのようにして、自然形成されていくのかなと感じました。