令和5年10月の読書感想文③ 正体 染井為人:著 光文社文庫
とてもとても重厚な物語。これまで歴史が経験してきたことを網羅しており、うなずきをもたらしは本でした。
正体 染井為人:著 光文社文庫 個人蔵
少年死刑囚が脱獄。
のっけからどきりとする展開が待っています。脱獄囚はこどもを含む3人を殺した少年ですが、脱獄後ほどなく情報が細っていきます。
物語の展開はもちろんこの脱獄囚を探し出すことにあるのですが、脱獄囚側、またはそれにかかわったとされる人たちの物語も含まれており、一連の出来事の重さや深さを秀逸に物語っています。つまりは、「ひとつの行動が及ぼす影響」について、小説という形で精密に表現されています。こちらの作品は映画化もされているようなので、機会があれば是非見てみたいです。
この作品の展開を考えると、「なぜ逃げるのか」という心理の一部が理解できるような気がします。大前提として、殺人を犯す心理はぼくには理解できませんが、それとは別の心理については、わかるかもしれないという考えです。世間では点ではなく線としてそのつながりを考察しますが、その線が意図的につなげられたものだったとしたらどうなのだろうと書きながら考えてしまいました。文庫としては重く、自立するほどの厚さを持っていますが、これぐらいの厚さでは足りないと感じさせる作品でした。