つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和5年11月の読書感想文⑬ アンビシャス 鈴木忠平:著 文藝春秋

北海道日本ハムファイターズの新本拠地となるボールパークエスコンフィールド北海道」が出来るまでの軌跡を追ったドキュメントです。

 

 

アンビシャス 鈴木忠平:著 文藝春秋 個人蔵

 

 

何かを創るというのは、結構「結果」のみ見られがちですが、創ろうとするところと、創っている途中のところは軽視されがちに思います。

 

プロ野球チームが北海道を本拠地とし、その後自前で球場を造るなんて、当時は考えもしませんでしたが、この報道を耳にしたとき、かなり胸が躍りました。反面、札幌ドームでの観戦はなくなることから、そう簡単に観戦には行けないだろうとも思いました。

 

個人で把握している範囲ですが、ファイターズは札幌ドームにおける使用条件の改善を数々申し出ていたらしいのですが、これが悉く拒否されていたそうです。選手のケガの可能性が高いことに加え、ロイヤリティーの高さは球団の人気とは裏腹に、成長するための資金を増やすことを阻んでいる状況だったと言います。これに危機感を抱いた球団は自前で球場を建設するための候補地を探し始めます。その後は地元メディアを中心に逐一報道がされたのでご存じの通りだと思いますが、札幌市に別れを告げ、北広島市に本拠地を置くことになりました。

 

その発端と過程も描かれており、息をのむ内容になっています。

新球場建設に関し、関係者には脅迫とも脅しともとれるないようの通知が来ていたそうです。不謹慎な言い方で恐縮ですが、「これくらいのこと」で、相手の命に対する言及をする人がいるくらいなのです。それだけ生きがいなのかは当人に確認しないとわかりませんが、それだけの気持ちを持っているなら、もっと広い視野で物事を見てはどうなのかと読んでいて思いました。

 

本書はかなり読み応えがあると同時に、球団と札幌ドーム、北広島市とのやりとりを記録した貴重な資料になります。注目すべき文言は「決別」。本書での表現ですが、札幌ドーム(札幌市)との交渉において明記されていました。札幌市民の多くは、札幌市または札幌ドームの担当者は、二度とないレベルの機会損失を招いたと自覚しています。そしてこれがお役所体質の象徴だと認識しています。だからこそ、オリンピックの招致に関しても喜べないのです。

 

苦労があるのは北広島市も同様で、これ以上ないプロジェクトが舞い込むことになりました。混乱の中でよく物事をまとめ、整備にこぎつけたと思います。これからは新駅の整備や住宅の整備等まだまだ忙しいと思いますが、これを足掛かりとした「再開発」に向けて、丁寧に歩んでほしいと思います。

 

 

札幌市は大きな存在を喪いました。札幌ドームも活気の大半が消えている状態です。

これからどのように活用していくのかが、腕の見せ所です。

手数料だけ高く取ることだけが目立っていますが、交渉力はもともとあるはず。

新たな基盤の招致に期待したいと思います。

 

本書を読んで感じたことは、是非「エスコン」の建設に関する記録も本にして欲しいなと思ったことです。日本でこのようなスタジアムが建設されるのは稀です。各地で独自の球場建設はありますが、エスコンは国内では唯一無二のものとなっています。文字にはしにくいかもしれませんが、「できあがるまで」の記録を、ファンとしては目にしたい気持ちがあるのです。