つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和5年師走の読書感想文③ 人財島(じんざいじま) 根本聡一郎:著 角川文庫

漫画でもありそうな設定であり、昔にありがちな話に感じましたが、現代という時代に合わせてブラッシュアップしたことで、より現実味が沸く恐ろしい作品となりました。

 

 

人財島(じんざいじま) 根本聡一郎:著 角川文庫 個人蔵

 

 

ここでいう人財島(じんざいじま)とは、日本にある架空の島にある研修施設の総称となります。近代テクノロジーも駆使された研修プログラムは銀行の支援をも引き出し、社会における様々な課題解決の方途として注目されている、というのが、表向きの存在理由でした。

 

 

しかしながら話の冒頭から不穏な流れとなります。

大手人材派遣会社の新入社員である主人公は、人財島への出向を強制的に命じられます。周りからは羨ましがられる出向でしたが、フタを開けてみると「聞いてないよ~」的な展開が待っています。冒頭に書いていた画期的な施設は、実は「使えない人材」を集めて生産性を半ば強制的に高めるという理不尽な施設だったのです。

 

そうとなれば話は早い。この島から出ていけばいいんだ。

そう誰もが考えるのですが、徹底的に管理監視されているうえ、孤島であるために脱出はほぼ不可能。大手を振ってこの島から出るには、業績を上げてこの島内でのトップランクに入るしかないと気づかされます。とは言っても労働で得られる対価は安く、日用品を買い揃えるだけで1日分の稼ぎを使い切ってしまうかもしれない環境のなか、どのようにして「あきらめない気持ち」を持ち続けたのか。そこまでの道のりに手に汗握ること間違いなしです。

 

 

この小説はひとつの「ブラック企業」小説になります。現実世界でも自分の会社はブラックだと嘆く声が聴こえてきます。小説ほどの過酷さは・・・

 

本書のエンディングは、何かと考える、自分の経験を顧みる内容になりました。

生産性(パフォーマンス)が叫ばれる昨今ですが、追求すれば追求するほど、頭打ちに悩まされると思います。その先に待っているのはなんだろうと、いつも考えます。

 

株主がいれば、大きな支援を受けていれば、生産性を注視するのは仕方のないことだと思います。しかしながらそこばかりに目を向けていると、大きなものを失ってしまう怖さを感じているのも事実です。とても難しい問題です。