つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和6年2月の読書感想文⑥ アンダードッグス 長浦京:著 角川文庫

読みたかった本でした。ちょうど文庫化されましたので買い求めました。

 

アンダードッグス 長浦京:著 角川文庫 個人蔵

 

スパイ小説と言えばいいのかもしれませんが、時代は中国返還前の香港と、日本を舞台としています。その歴史の過程にある一部分を少しもらって描く小説は数多ありますが、これは最後までどう転ぶかわからない、とてもスリリングな作品でした。

 

と、同時に、日本の制度の闇も書き出しています。

参考文献等の記述はありまっせんしたし、ほんとのところはどうかはわかりませんが、日本の政治の暗部も浮き出させていることから、この作品の根幹が尋常ならない立場関係から生まれたものであることがわかり、登場人物にある運命の残酷さを痛感させます。

 

この作品に共通する目的は、中国に返還される前の香港から運び出される機密情報の奪取。その難しさも国家レベルになっています。ここまでくると映画の世界ですが、ほんとうはこういった「史実」も、歴史のどこかのタイミングでは起きていたのかもしれないと思うと、人間は人間に残酷なことを課すのを厭わないのだなと身が震えます。

 

そのレベルはまったく違いますが、現代の闇バイトも似たような構図です。

しかしながら、闇バイトは後にも先にも、歴史を動かすといったようなことは起きず、ただただ断罪されるだけだと思います。

 

いわゆる犯罪で夢実現のための加速を得ようという考えは、誤りであり、強制的に打ち込まれるクスリのようなものだと、言わざるをえません。働くことを忌み嫌う人もいれば、そのような仕事でもよいからと手を染める人がいる。働いて対価を得るということの基本的な価値原理のようなものを、改めて刷り込んでいかなくてはならないのかなと感じました。