つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和6年3月の読書感想文② 赤目四十八瀧心中未遂 車谷長吉(くるまやちょうきつ):著 文春文庫

なんとも泥臭い作品です。そこを見事に書いています。

平成10年の直木賞受賞作品となります。

 

 

赤目四十八瀧心中未遂 車谷長吉(くるまやちょうきつ):著 文春文庫 個人蔵

 

 

決して裕福とは言えない環境で生活し続けていく、ちょっと普通じゃない人たちの息遣いを描いた作品。おそらくどこかの時点では、こういった生活様相がそこかしこにあったのではと思われるくらいのものに見えるが、見たいけど見たらダメなような気がする、そんなことを思わせる作品でした。

 

その理由としては、その環境から抜け出さない、抜け出せない、抜け出す空気を感じないというのがありました。そもともというか、もともとというのか、外の世界のことを考えたことがないような認識で話が進んでいくのです。他にないからここしかないという認識というよりは、「ここ以外の世界はない」として日々を過ごしているように感じました。そのため、あまり重苦しくない程度の絶望が漂っていたのだと思います。

 

現代でも、このような様相はあると思います。抜け出したいけど抜け出せないとか、どうせ自分は抜けられないとか、いろんなことを考えていると思います。

でも実際は、その機会はあると思うのです。痛みとか苦しみ等を伴う場合はありますが、少なくともその場所から違う場所に行くことはできます。あとは身体を動かすかどうかにかかっているとしかいうことができません。

 

 

ここでは世界の底辺を扱った作品としていますが、そこにも人間の感情は動いています。いまいる場所でも、違う場所でも、人間の感情は絶えず流れ動いているのです。それを実感したとき、少々背筋が寒くなりました。