つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和6年3月の読書感想文⑧ 鯨の岬 河﨑秋子:著 集英社文庫

新しい北海道文学を確立した河﨑さんの中編集になります。

 

鯨の岬 河﨑秋子:著 集英社文庫 個人蔵

 

表題作のほか1編を収録。

 

いずれも「過去そこにいた(またはあった)北海道内の土地」を題材としており、そこに人間の営みと言いますか、邂逅を織り込んでいます。表題作は現代となっていますが、もう1編は江戸後期という時代背景。そこには過去を生きた人と、過去に今をいっしょうけんめい生きた人が鮮烈に描かれていて、情景が目に浮かぶことが多かったように思います。

 

 

何かを切っ掛けに過去の記憶が呼び戻される、というのはよくある経験だと思います。表題作はその機能を巧みに利用し、人間の根源へと誘います。もう1編は「生き死に」という、これまた人間の根源を突き付けます。このような強い書き方が名作を生んだのだろうと、道内のいち読者は思います。今回賞を獲った作品は既に手元にあるものの、読むのはまだ先になりそう。過去作も含め、今一度読んでみようと思いました。