つたわりとどけ。

日常と非日常のはざまから、伝え、届けたいことを個人で探求し、実践します。このたび不定期更新に切り替えました。

令和3年6月の読書感想文③ デス・ゾーン 河野啓:著 集英社

栗城さん関連の図書、本書が最後になります。

 

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デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場 河野啓:著 集英社

八雲町立図書館蔵

 

※2020年 第18回 開高健ノンフィクション賞 受賞作

 

 

ここで初めて著者が栗城さん以外の人になりました。

著者プロフィールを見ますと、北海道のテレビ局の方なんですね。

この本はかなり話題に上がっていたので、図書館に蔵書があり大変助かりました。

 

 

他社から見た栗城史多

 

本作はまさしく、これに尽きると思います。

もう栗城さんは故人になってしまいましたが、本人が「こうなのになぁ」と思っている(た)ところでも、彼を囲んだ他人からはどのように見えていたのかがよくわかる内容になっています。その内容はとても衝撃的かつ魅力的でありました。

 

ぼくの感想としては、栗城さんはとても「生きづらい人」なんだと思います。

(これは栗城さん本人もそのようなことを言っていた気が)

しかし高い山に登ることで注目を集めると、周りの目が一気に変わります。

本書を読んだ限りでは、「利用」目的の人しか集まっていない印象です。

特にスピリチュアル系、ネットワークビジネス系は、彼の周りに、群がっては彼を英雄のように褒めたたえ、そして集客していたのだろうなあと想像します。

 

 

 

山へ登るのはどうしてか

 

理由については栗城さん本人が語っていますが、実際はどうだったのだろうと思案してしまいます。きっと、彼は褒められたかったのではないか、というところです。

それならば彼の取り巻きに褒められているのではないか?という疑問が浮かぶのですが、恐らく彼は誰かからではなく、山の中にある神秘さに褒められたかったのだと思います。ちょっとスピリチュアルなのですが。彼自身、山に入った時の感覚をあれこれと著書において説明していますが、いち読み手としては、興奮していただけなのではないかと考えます。またこれはぼくの経験からする考えですが、山は特段褒めもしないし苦難を与えたりもしません。誰か特定の人に対し、何かをするというのは大前提としてありません。そこの捉え方を間違えると、自分の手元からいろんなものを吸われていくことになります。

 

 

 

 

改めて、「栗城さん、あなたはそこで死ぬべきではなかった。生きるべきだった。」

 

本書ラストは衝撃の内容です。読んでいただきたいので内容は伏せますが、最後の彼の状況を文字で追っていくと、どうしてもぼくには彼がそこで「死を選んだ」のではないかと思ってしまうのです。少なくとも、自力で進めるとは思っていなかったでしょう。だからこそ、治療法などで「特別な」状態になれる(かもしれない)ことを試してきたんじゃないかと思います。最後も、山の神様が手を差し伸べてくれると思っていたのではないでしょうか。しかし、山の神、広げていえば、サムシンググレートは、彼に対して何かをすることはありませんでした。

 

山を登り切った後の人生に触れるところがあったのですが、彼はそこにたどり着くのが怖かったのかもしれません。だから途中で終わらせたのかもしれない。そう考えると、彼はつくづく不器用なのだな、と思えてしまいます。プロ野球選手にだって引退後の生活がある訳で、彼だけ特別ということではないのです。そのくだりを読んで、単純に現実に戻るのが嫌だ、または怖い」と思っているのだと感じました。だからこそ、死ぬべきではなく、生きるべきだったと思っています。

 

しかし、何よりかわいそうなのは栗城さんです。以前のような純粋さはどんどん「奪われて」いきました。最後のほうはもはや登山家ではなくなっていた、というところです。そうさせたのは、彼の周りにいた、影響力の強い人たちではなかったのだろうか。であるならば、生きる指標を与えてはくれなかったのだろうかと考えてしまいます。説得するのは、難しいと思います。ですが、死んでしまうよりはずっとましです。

 

 

さいごに

この状況は何も特別な環境ではなく、普段生活している範囲でも充分に起こりうる。

この本を読んでいて、ネットワークビジネスといった類への警鐘にも感じた。

今や多くの匿名者がうまい話を持ってくる。時には実際の人間が仮面をかぶってやってくる。それを見破るのはどんどん難しくなってくる。知識をつけていくのもかんたんではない。

 

残念ながら、栗城史多さんは亡くなってしまった。これ以上、栗城さんのような亡くなり方を増やしてはいけないと、正直に思いました。